68年卒の前田です。星野さんから新しいニューヨーク便りが届きました。コルトレーン情報です。是非掲載をお願いします。以下転送します。
ジャズ愛好の皆さんへ
物事はたて続けにやって来る。まさにその通り。先般リー・モーガンのドキュメント映画についてのご案内をしたと思ったら、時をおかずジョン・コルトレーンのドキュメント映画についてのご案内をすることになりました。題名はそのものずばりの『チェイシング・トレーン』 (トレーンを追いかけて――と列車を追いかけてにひっかけた題名)。
先般のご案内に対し、コルトレーン研究家である藤岡靖洋氏 (ふじおか やすひろ、外国人への通称「フジ」) から、コルトレーンについての映画もニューヨークで4/14から上映されるとの耳よりの情報を貰いました。上映に先立ちNY市のラジオ局WNYC-FM (寄付で運営) でも、4/14に今回の映画の監督ジョン・シェインフェルド氏とのインタビューがありました。
以下のWNYCのサイトに入れば、ストリーミングで番組を聞くことが出来ます。 http://www.wnyc.org/story/doc-captures-life-and-music-john-coltrane ←ここをクリックすれば聞ける筈
"Chasing Trane: The John Coltrane Documentary" opens on April 14th at the IFC Center. Director John Scheinfeld will appear for a Q & A on April 14 at 7:35 p.m., on April 15 at 7:35 p.m. alongside Benny Golson, and on April 16 at 2:55 p.m. alongside Dr. Cornel West.
(NY地域在住の方、Greenwich VillageにあるこのIFC Center劇場にて上映中です。)
観客との質疑応答 (Q & A) のため、テナーサックス奏者・作曲家であるベニー・ゴルソン氏が劇場に来るとのこともあり、当方は昨日4/15 (土曜) にこの映画を見に行ってきました。
前回のリー・モーガンのドキュメント映画では、内縁の奥さんヘレン・モーガンからのテープ録音回顧談を中心に話が展開していました。今回のジョン・コルトレーンの映画では、コルトレーン本人の過去のインタビュー発言、家族、音楽仲間などの証言を合い混ぜながら、コルトレーン本人が如何にスピリチュアルな音楽家として進化していったのか――をまさにチェイスしてゆく自伝的な映画でありました。
以下は当方の感想などです。
前回と同じく、当方は退屈せず見ました。300人くらい収容の劇場でしたが、質疑応答の回ということもあって切符は売切れ。自分を含めた年配者が多かったものの、若い人もそこそこ居ました。若い人の多くはコルトレーンの名前すら知らないだろうから、恐らく若い音楽家・音楽ファンと推察。
コルトレーンは "音楽は饒舌、言葉は寡黙" の人であったため、少しのインタビュー記録しか残されておらず、それも画像のない質の悪い録音しかなかった――と監督が説明していました。それ故、人気黒人俳優デンゼル・ワシントンに吹替えで語って貰った由であり、その断片が流れる訳ですが、これは実に効果的でした。
インタビューには、家族としては息子でテナー奏者のラヴィ・コルトレーン、弟のオラン、それから初インタビューの応じた前妻ナイマの連れ子であった娘 (名前を失念、今では立派な大人) が登場し、音楽仲間としてはバンドのメンバーであったレジー・ワークマン、マッコイ・タイナー、古くからの楽友であるベニー・ゴルソン、ジミー・ヒース、それからウェイン・ショーターが入れ替わり登場します。 音楽家としてはコルトレーンを尊敬して止まないカルロス・サンタナ、ジョン・デンスモア (ロック・バンドThe Doorsのドラム奏者) が登場します。変わり種では、これまたコルトレーンを尊敬するビル・クリントン元米国大統領の登場し、その断片が結構使われています。コルトレーン研究家としてはアシュリー・カーン、ルイス・ポーター、上記の藤岡靖洋の各氏が登場します。
勿論、レコードがバックに流れると共に、過去のビデオも映りますが、演奏が1曲まるまる見れるのはありません。監督の話では、米国での放送演奏ビデオの内サンフランシスコで放送された番組の使用許可は取れなかったので、マイルスの放送 (有名な「So What」のセッション) とヨーロッパの放送からのビデオの断片が使われていました。 演奏ではないものでは、NY州ロングアイランドにある自宅でのカラーのファミリー・フィルム、同じくカラーで録音スタジオでの打合せ風景がありました。カラーでは恐らくジャズのお店DUGの店主であり、写真家である中平穂積氏の撮影によるニューポート・ジャズ・フェスティバルでのフィルム撮影に、うまく当日の演奏と思われる音をかぶせていました。
映画の最後部分では、コルトレーンが長崎演奏旅行の折りの原爆記念碑での祈りを捧げる場面と、その夜の長崎でのバンドの演奏 (ピース・オン・アース) の場面の写真説明があり、日本人としては感動的でありました。
映画を見てから、長いことコルトレーンの演奏、それも『A Love Supreme』以降を聴いていないな――と思い考えました。自宅オフィスで仕事をしながらよく音楽を聞いていますが、やはり後期のコルトレーンの演奏はそういう生半可な楽しみだけで聴くのを許さない精神的なものがあり、それで聴いていないのだと思い至りました。一種宗教的ともいえる要素が強く、襟を正して正座して拝聴する、というような感覚ですから、自分では無意識に避けていたのかも知れません。
質疑応答に先立ち、ゴルソン氏はコルトレーンと学生の時に知合いとなったあたりの逸話を語ってくれました。中でも本人に印象が深かったのは、コルトレーンは当時はジョニー・ホッジスのような吹き方でまだアルトサックスを吹いていたそうで、ゴルソン氏の家に遊びに来て「セント・ルイス・ブルース」を吹いたらゴルソン氏の母親がその演奏をえらく気に入り、コルトレーンが訪ねて来る度に演奏してくれとせがんだ由です。所が二人は一緒にチャーリー・パーカーの演奏を聴いて驚き、これこそが自分たちのやりたいこと――と気持ちは先に進んでいったそうであったのに、母親はまだ「セント・ルイス〜」の演奏をせがみ、困惑したとの由でした。
質疑応答の中では、中年の白人女性からコルトレーン教会のことは知っていたのか――との質問がありました。これに対して監督は勿論知っていたが、他の記録映画で取り上げられていることもあり、今回は映画には含めなかったと説明していました。監督によれば、コルトレーン教会は閉鎖されていたものの、最近復活したとの由です。
尚、ニューヨーク・タイムズに映画の紹介記事がありましたので、以下参考までに貼付けを致します。
日本でその内このビデオも公開されると思いますが、取り急ぎお知らせまで。尚、当方からのご案内が迷惑な場合は、その旨をお伝え頂ければ直ぐにメールリストから外します。また、他の方へのこのメール転送は勿論OKです。
星野正治 拝
Review: In "Chasing Trane," Where's the Joy of Sax? https://www.nytimes.com/2017/04/13/movies/chasing-trane-the-john-coltrane-documentary-review.html The New York Times, 2017.
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