top of page
検索
執筆者の写真ダンモOB会事務局

ユーロのピアニスト (その4 最終回)

武冨さん (鑑賞部 '68) から

その1では新しいピアノ・トリオのスタイルを追求した今は亡きE.S.T.のSvenssonをご紹介することから始まり、その2、その3では中堅からベテランまでのバッパー、Bill EvansやKeith Jarrett系の叙情派、そしてフリーに近いところまでご案内しました。

最終回はこれからのユーロのピアノ界を引っ張って行くであろうと勝手に私が期待している若手をご紹介することとします。

大きな流れとしては従来からのハード・バップ系のピアニストあり、又叙情派は更にクラシカルなメロディーとノリで新たな叙情的ピアノの世界を表現しています。

そしてE.S.T.のSvenssonの影響を受け、あるいは上原ひろみの影響もあったかもしれませんが、ポップでダイナミックなピアニストを最後にご紹介します。

ピアノが進化し変わるということは、それをサポートするベースやドラムスも進化し変わらねばならず、トリオの極みとはこの三者のコラボレーションから成り立っているのです。

音楽は常に進化しています、ジャズとて同じこと進化しなければジャズではないのです。

学生の皆様にはぜひこの辺もしっかりとお聞きいただきたいものです。


Ernst Glerum / オランダ

Omnibus Two (Favorite 5)    ジャズ大国オランダから登場です。     実は『Omnibus One (Favorite 2)』を紹介するかそれとも『Two』にするか迷いました。     というのも『One』の世界は、最近には無いノリの良い剛腕なタッチのピアニストが突如としてジャズ・シーンに現れたため、バップ・フアンには絶賛を持って迎えられ、良く売れたアルバムだからなのです     また音が良いこともあってLPでもプレスされアナログ・フアンからも人気のアルバムとなりました。     ただ『One』は、彼はベースも良くすることから、もう一人のベーシストとドラマーという超変則トリオで、多分に実験的な曲が半分もあるのです。     私には低域をツインのベースでガンガンくる曲は面白く楽しめますし、ベース好きには勉強になる格好のアルバムではありますが、そうでない向きには飽きてしまうからです。     その点『Two』はすべて彼がピアノに専念したトリオ・アルバムで誰にでも楽しめます。     実に力強いタッチで軟弱な美メロ派を蹴飛ばす勢いがたまりません。     と言っても、かの時代の黒々とした油濃いバッパーとは全く異なったモダンなスタイルで、これもバップ・ピアノの一例かと思わせます。     Omnibusシリーズは現在『Four』まで出ていますが『Three』はベースに専念していてピアノは他人です、正直今一つの感は否めません。     またこのOmnibusシリーズのパッケージは『Four』を除きレトロ・バスのカバーで、これも評判になっています。


Georges Paczynski / フランス

Levin’ Song (澤野工房 AS068)    Paczynskiはドラマーですが敢えてここに紹介します。     なぜ彼を紹介するかと言うと、良いピアニストを見つけてきては自分のトリオを編成して世に送り出して来るからですが、どのアルバムも素晴らしい出来だからです。     このアルバムのピアニストは前作『8 Years Old』と同じメンバーでJean-Christophe Levinson (p)、Jean-François Jenny-Clark (b) と組んでいます。     美メロ派にはたまらない一品なのですが、やさしさに満たされ、それでいて情に流されることのない叙情的なプレイはMirabassiと実に良い勝負なのです。     このアルバムの素晴らしさはLevinsonのピアノにあることは勿論ですが、サポートのPaczynskiのドラムスが叩き過ぎることなく叙情的ピアノを最大限に飾り立てています。     この手の新しい叩き方は、ドラムスを勉強している皆さんに参考になると思います。     そして今は亡きJenny-Clarkのベースは、叙情派ピアノにはこれしか無いと思わせるサポートで、三位一体となったコラボレーションの妙味を教えてくれるのです。     超絶技巧のプレイをお聞きください、生きていれば間違いなくユーロ最高のベーシストと呼ばれていたであろうと、私は思っています。     ベースを学ぶ方の必聴アルバムでもあります。    もう一枚『Generations』(Art & Spectacles ASCD060401) をご紹介します。     ここではRenaud Palisseaux (p)、Laurent Fradelizi (b) とメンバーは変わりますが、傾向としては『Levin’ Song』と同じような叙情派ピアノです。     このピアニストもなかなかのものでこの後紹介するイタリアのVincenzo Daniseのようなクラシカルなメロディーとタッチが面白いアルバムとなっています。     そしてオーディオ・フアンには外せないアルバムでもあります。     私はいまだにこのアルバムを超える高音質のアルバムを聞いたことがありません。     超低域から超高域までフラットにダイナミックにそして楽器の距離感も申し分なく、それぞれの楽器の質感を生々しく伝えて来るのです。     良い音だとついつい大きな音で再生してしまいます、隣近所にご迷惑を掛けないように願います。


Vincenzo Danise / イタリア

Immaginando un trio - vol. 1 (Radar 40009)    初めて聞いた時からスピーカーから流れて来る音に驚きました。     確かにBill EvansやKeith Jarrett系の叙情派のピアノと言えばその通りなのですが、左手を巧みに使った色彩豊かなメロディーとそのタッチはクラシカルな素養から溢れ出てくるものなのです。     E.S.T.のSvenssonの影響を思わせる曲もあって面白く聞かれます。     オーディオ・フアンから見ても音の良いアルバムとして紹介できます。     パッケージは、CDには最高のジャケットとも言うべき厚紙の体裁で、中身も20頁に及ぶガイドがあるのですがイタリア語ですからこれは何を書いてあるのか残念ながら分かりません。     このような立派なパッケージでは、通常の価格で売っても採算が合わないという贅沢なものです。     表紙のモノクロ写真は彼がピアノに向かっているのですが、まるでクラシカルのCDかと思うようなアルバムとなっています。     このCDのパッケージの豪華さに思わず手にして買ってしまったのが実情でしたが、中身も素晴らしいアルバムだったのです。     良く売れたアルバムでもあります、Vol. 2を期待して待っているのですが残念ながら今現在は出ていません。


Roy Powell / ノルウエー (イギリス出身)

Solace (Nagel Heyer NH2036, 寺島レコードTRI004)    元々はNagel Heyerのアルバムですが、私が求めたのはピアノ大好き御仁の寺島レコードから再出版されたものです。     寺島氏の推薦アルバムだから間違いは無いだろうという動機だったのですが、これは本当に素晴らしいアルバムで、この手のピアノ・ジャズもあったのかと思わずにはいられません。     全曲ミディアムからスローばかりですが、一曲当たりは長すぎることなく数分で終えることからダレルこともなく、丁度良い長さの美メロ・ワールドが展開されています。    この後『Napoli』(Tapas, ガッツ・プロダクション TPRD002) というアルバムが出ました。     パッケージの写真が凄いのです、女がスパゲティーを大口に頬張って、どちらかと言えばゲテモノCD風ですが、中身は極めて真っ当な良いアルバムです。     イタリアに行き当地の名曲を地元のベースとドラムスのサポートを得て作ったもので、『Solace』に比べイタリアらしい明るさと軽快なリズムで親しみやすいジャズが楽しめます。


Abe Rábade / ポルトガル

A Modo (Karonte KAR7833)    彼の独特のリズムとメロディーは今までのジャズには無かったと思わずにはいられません。     スペインと同じようにイスラームの影響下にあったイベリア半島のジャズと言っては言い過ぎでしょうか。     それ故に、何事が起きるのかと耳をそばだてるほどに新鮮に聞こえてくるのです。     最も全曲に渡って彼独特なジャズというわけではなく、叙情派ピアニストらしい曲やフォービートに乗った曲もあります。     ポルトガルのジャズ・メンですから珍しいと言えば珍しいのですが、お隣のスペインはジャズ大国ですから、別段珍しい分けでも無いのかもしれません。     多分スペインでも活躍しているのでしょう。


Rémi Panossian / フランス

BBANG (Plus loin music VDCD-6398)    前作の『Add Fiction』 (Plusloin Music PL-4538) を紹介するかどうか迷いました。     と言うのは前作で彼を初めて聞いたこともあって、衝撃度は前作の方にあったからです。     しかし『BBANG』は前作より更に進化していることからこちらを紹介することにします。     彼は「東京ジャズ」にも来ましたのでご覧になった方もあるかと思いますが、そのスタイルはポップで明るく楽しいメロディーで一気にノリノリの気分にさせてくれます。     ある意味上原ひろみ的ではありますが、曲によっては新感覚のものもあり、どちらかと言うとE.S.T.のSvenssonに近い線でしょう。     ベースとドラムスも当然のことながら、今まで聞きなれたジャズらしいそれとは異なり、E.S.T.やひろみトリオと同じようなポップ系に近いものを感じます。     彼はまだまだ進化し続けるピアニストでしょう、次にご紹介するTingvallと同様に私としては追っかけ続ける対象なのです。


Martin Tingvall / スエーデン

In Concert (Skip SKP9127-2)    彼はE.S.T.のSvenssonと同国人です、大きく影響を受けたに違いありません。     Panossianと似ていて明るくノリの良いスタイルではありますが、このアルバムはライブということもあって演者も聴衆も一体になって楽しんでいます。     CDで聞いてもその臨場感に思わず声を出して楽しんでしまうでしょう。     ライブの割に音の良いことも幸いしています。     ユーロではドイツ他でアウォードを取り、今ではユーロ・ナンバー・ワンの人気ピアニストと言っても過言ではなくなりました。     ポップスの世界からも人気があるところもE.S.T.や上原ひろみに良く似ているところです。     このほかにアルバムは数枚ありますが、今現在ではこれが一番新しいアルバムです。

武冨 学 (鑑賞部 '68)


参考

閲覧数:23回0件のコメント

Comments


bottom of page